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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)974号 判決

原告(前田嘉七承継人) 前田ヨシ

〈ほか一名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 宮崎英明

被告 水野寛一

〈ほか七名〉

被告ら訴訟代理人弁護士 吉田賢三

主文

一  原告前田ヨシが被告高橋繁松に賃貸している別紙物件目録記載の(二)(2)の土地の、被告小松崎豊吉に賃貸している同目録記載の(八)の土地の各賃料は、昭和五〇年五月一日以降三・三平方メートル当り月額で、右(二)(2)の土地につき金二六〇円、右(八)の土地につき金三五〇円であることを確認する。

二  原告前田耕作が被告水野寛一に賃貸している別紙物件目録記載の(一)の土地の、被告高橋繁松に賃貸している同目録記載の(二)(1)の土地の、被告三家本真澄に賃貸している同目録記載の(三)の土地の、被告池上ツナに賃貸している同目録記載の(四)の土地の、被告尾林一二三に賃貸している同目録記載の(五)の土地の、被告横町綱に賃貸している同目録記載の(六)の土地の、被告小林健治に賃貸している同目録記載の(七)の土地の各賃料は、昭和五〇年五月一日以降三・三平方メートル当り月額で、右(一)、(二)(1)、(四)、(五)、(七)の各土地につき各金二六〇円、右(三)の土地につき金二七〇円、右(六)の土地につき金一七〇円であることを確認する。

三  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告前田ヨシ(以下「原告ヨシ」という。)が被告高橋繁松(以下「被告高橋」といい、他の被告の表示も右例による。)に賃貸している別紙物件目録記載の(二)(2)の土地(以下「本件(二)(2)土地」といい、同目録記載のその他の土地の表示も右例による。)の、被告小松崎に賃貸している本件(八)土地の各賃料は、いずれも昭和五〇年五月一日以降三・三平方メートル当り月額金五〇〇円であることを確認する。

2  原告前田耕作(以下「原告耕作」という。)が被告水野に賃貸している本件(一)土地の、被告高橋に賃貸している本件(二)(1)土地の、被告三家本に賃貸している本件(三)土地の、被告池上に賃貸している本件(四)土地の、被告尾林に賃貸している本件(五)土地の、被告横町に賃貸している本件(六)土地の、被告小林に賃貸している本件(七)土地の各賃料は、いずれも昭和五〇年五月一日以降三・三平方メートル当り月額金五〇〇円であることを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らの被承継人亡前田嘉七(以下「亡嘉七」という。)は、

(一) 被告水野に対し、昭和三一年九月一日、本件(一)土地を、

(二) 被告高橋に対し、昭和一一年三月一一日本件(二)(1)土地を、昭和一五年一二月一日本件(二)(2)土地を、

(三) 被告三家本に対し、昭和一〇年四月一日、本件(三)土地を、

(四) 被告池上に対し、昭和一〇年三月五日、本件(四)土地を、

(五) 被告尾林の被承継人亡尾林酉蔵に対し、昭和一〇年二月二五日、本件(五)土地を、

(六) 被告横町の先代幸太郎に対し、昭和八年一二月二〇日、本件(六)土地を、

(七) 被告小林の先代としに対し、昭和一〇年九月一日、本件(七)土地を、

(八) 被告小松崎に対し、昭和一〇年九月一日、本件(八)土地を、

いずれも普通建物所有目的、賃貸期間二〇年(本件(五)土地については賃貸期間の定めはない。)の約定で賃貸し、引き渡した(その後、右各賃貸借契約は更新されて現在に至っている。)。

2  その後、本件(六)土地については被告横町が、本件(七)土地については被告小林が、いずれも先代より相続により賃借人たる地位を承継した。

また、本件(五)土地については、賃借人であった亡尾林酉蔵が昭和五〇年五月二七日死亡し、被告尾林が相続により右酉蔵の賃借人たる地位を承継した。

3  本件各土地の賃料は、合意に基づく改訂により、本件(一)、(二)(1)(2)、(四)、(五)、(七)の各土地については、いずれも昭和四七年五月一日以降三・三平方メートル当り月額金一六〇円であり、本件(三)土地については、右同日以降三・三平方メートル当り月額金一七〇円であり、本件(六)土地については昭和四六年一〇月一日以降三・三平方メートル当り月額金一〇〇円であり、本件(八)土地については、昭和四七年五月一日以降三・三平方メートル当り月額金一八〇円である。

4  その後本件各土地に対する公租公課は別表記載のとおり増加し、地価も上昇したうえ、近隣土地の地代と比較しても、本件各土地の前項記載の賃料額は不当に低額となった。

5(一)  そこで、亡嘉七は、昭和四九年八月三一日、被告ら(被告尾林については、その被承継人尾林酉蔵)に対し、口頭で、本件各土地の賃料を昭和五〇年二月一日以降三・三平方メートル当り月額金五〇〇円に増額する旨の意思表示をした。

(二) 仮に、前項の意思表示が認められないとしても、亡嘉七は、本訴状をもって、被告らに対し、前項と同一内容の意思表示をした。

本訴状は、被告三家本、同池上、同小松崎に対しては昭和五〇年二月二〇日、被告尾林の被承継人尾林酉蔵、被告横町に対しては同月二一日、被告水野に対しては同月二二日、被告小林に対しては同月二四日、被告高橋に対しては同年四月二一日にそれぞれ送達された。

6  亡嘉七は、昭和五〇年六月一二日死亡し、妻の原告ヨシが相続により本件(二)(2)土地及び本件(八)土地の各所有権を取得するとともに、右各土地についての賃貸人たる地位を承継し、長男の原告耕作が相続により右各土地を除くその余の本件各土地の各所有権を取得するとともに、右各土地についての賃貸人たる地位を承継した。

7  よって、原告ヨシは本件(二)(2)土地及び本件(八)土地につき、原告耕作は本件(一)、(二)(1)、(三)ないし(七)の各土地につき、被告らに対する前記各賃貸借契約に基づく賃料が昭和五〇年五月一日以降三・三平方メートル当り月額金五〇〇円であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4のうち、本件各土地に対する公租公課が別表記載のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

別表の記載から明らかなとおり、本件各土地の公租公課は、昭和四八年度より昭和四九年度、五〇年度の方が低額になっているうえ、三鷹市内の地価公示価格は、昭和五〇年一月一日現在で一年前より平均一一パーセント下落しているなど、地価は低落傾向にある。のみならず、本件各土地の近隣地代も、右の情況から昭和四九年、五〇年はほとんど据置かれている。したがって、本件各土地については、昭和五〇年当時地代増額請求の要件は具備していない。

3  同5のうち、(一)の事実は否認する。(二)のうち、本訴状の被告らへの送達日が原告ら主張のとおりであることは認めるが、本訴状の送達に、原告ら主張のごとき賃料増額請求の意思表示の効力は、その性質上認められないと解すべきである。

4  同6の事実は認める。

5  仮に、本件各土地の昭和五〇年五月一日以降の賃料について増額請求が認められるとしても、その場合における適正賃料額は、継続賃料の特質にかんがみて、増額請求直前の合意賃料より公租公課を差し引いた純地代額に物価上昇率を乗じて得た金額に増額請求時の公租公課を加算する、いわゆるスライド方式により算出するのが相当である。

右スライド方式により本件各土地の昭和五〇年五月一日の時点における三・三平方メートル当りの適正月額賃料を算出すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

(一) 本件(一)土地     金二一四円

(二)(1) 本件(二)(1)土地   金二一七円

(2) 本件(二)(2)土地   金二一六円

(三) 本件(三)土地     金二二七円

(四) 本件(四)土地     金二一四円

(五) 本件(五)土地     金二一四円

(六) 本件(六)土地     金一四六円

(七) 本件(七)土地     金二一四円

(八) 本件(八)土地     金二七九円

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし3及び6の事実は当事者間に争いがない。

二1  請求原因5(一)の事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

2  しかしながら、本件記録によれば、亡嘉七は、本訴状をもって本件各土地の昭和五〇年二月一日以降の賃料が三・三平方メートル当り月額金五〇〇円であることの確認を求めていることが明らかであるから、少くとも、本訴状の送達により、亡嘉七より被告ら(被告尾林については被承継人尾林酉蔵)に対し、右送達日以降三・三平方メートル当り月額金五〇〇円に賃料を増額する旨の意思表示がなされているものと解するのが相当である。

しかるところ、本訴状の送達日が請求原因5(二)記載のとおりであることは本件記録上明らかである。

三  ところで、本件各土地の公租公課が別表記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、同表によれば、前認定の賃料増額の意思表示がなされる以前の本件各土地の賃料(以下「従前賃料」という。)が当事者間において合意により改訂された昭和四六、四七年以降右意思表示がなされた同五〇年までの間に、本件各土地の公租公課が相当程度増額されていることが明らかであり、それに伴い、右賃料より公租公課を差し引いた純賃料が相当減額していることは計算上明らかである。そのうえ、《証拠省略》によれば、東京都区部の消費者物価指数は、昭和四五年を一〇〇とした場合、従前賃料の合意による改訂がなされた昭和四六年は一〇六・三、同四七年は一一一・四であるのに対し、前記増額の意思表示がなされた昭和五〇年は一七一・一であることが認められ、物価もかなり上昇していることが明らかであるうえ、昭和四六、四七年以降昭和五〇年までの間に一般に地価が相当程度上昇したことは公知の事実というべきである。

してみれば、昭和四六、四七年以降における右認定した経済事情等の変動の結果、前認定の本件各土地の従前賃料は不相当に低額となったものというべきであるから、前認定の賃料増額請求は、その事由を具備しているものといわねばならない。

なお、被告らは、本件各土地の公租公課が昭和四八年度より昭和四九、五〇年度の方が低額になっていること、三鷹市内の地価公示価額が昭和五〇年一月一日現在で一年前より平均一一パーセント下落していることなどを理由に、前認定の賃料増額請求はその事由を具備していない旨主張しているが、経済事情等の変動の対比は、前判示のとおり本件各土地の従前賃料の合意による改訂がなされた昭和四六、四七年の時点と賃料増額の意思表示がなされた昭和五〇年の時点との間の比較において行うべきものであるから、被告らの右主張は採用できない。

四  そこで、前認定の賃料増額請求の時点における本件各土地の適正賃料額を検討する。

1  まず、本件各土地の合意に基づく改訂がなされた従前賃料より右改訂時(本件(六)土地については昭和四六年一〇月一日、その余の本件各土地については昭和四七年五月一日)における公租公課額を差し引いて純賃料を求めたうえ、これにその後における右増額請求時までの物価上昇率を乗じて得た金額に右増額請求時における公租公課額を加算して右増額請求時の継続賃料を算出するいわゆるスライド方式によれば、本件各土地の三・三平方メートル当りの月額賃料は次のとおりとなる(なお、本件各土地の従前賃料及び公租公課額は前記一及び三で認定したとおりであり、物価上昇率も前記三で認定した東京都区部の消費者物価指数を用いることとし、右指数は、昭和四五年を一〇〇とすると、昭和四六年一〇六・三、同四七年一一一・四、同五〇年一七一・一となる。)。

(一)  本件(一)土地     金二三〇円

算式(160円-101.94円)×171.1/111.4+141.24円=230.41円

(二)  本件(二)(1)土地    金二三三円

算式(160円-95.95円)×171.1/111.4+134.75円=233.12円

本件(二)(2)土地    金二二九円

算式(160円-103.43円)×171.1/111.4+143.10円=229.98円

(三)  本件(三)土地     金二四五円

算式(170円-101.94円)×171.1/111.4+141.24円=245.77円

(四)  本件(四)土地     金二三〇円

算式は本件(一)土地に同じ。

(五)  本件(五)土地     金二三〇円

算式は本件(一)土地に同じ。

(六)  本件(六)土地     金一六三円

算式(100円-48.15円)×171.1/106.3+80.25円=163.07円

(七)  本件(七)土地     金二三〇円

算式は本件(一)土地に同じ。

(八)  本件(八)土地     金二九四円

算式(180円-123.69円)×171.1/111.4+207.87円=294.35円

2  次に、本件各土地の近隣の地代について検討するに、《証拠省略》によれば、

(一)  本件各土地は、南北に走る本町通り商店街をはさんで、ほとんどがこれに面する形でその東西に存する(但し、本件(六)土地は本町通り住宅街に位置する。)が、本件(一)、(三)、(四)、(五)、(七)の各土地と同一地番(但し、本件(三)、(七)の各土地については分筆前の地番)の三鷹市下連雀三丁目二一三番一の土地(以下、近隣土地の表示は地番のみによる。)、本件(二)(2)土地と同一地番の二一三番七の土地、本件(二)(1)土地と同一地番の二一三番一〇の土地、本件(六)土地と同一地番の二一七番四の土地、本件(八)土地と同一地番(但し、分筆前の地番)の二一三番九の土地、以上の各土地には被告らと地主(亡嘉七)を同じくする借地人がそれぞれ複数いるところ、右借地人らの三・三平方メートル当りの月額賃料(いずれも合意により改訂)は、

(1) 二一三番一、同番七、同番一〇の各土地については、昭和四七年五月から金一六〇円ないし一七〇円、昭和四九年七月から金二一〇円ないし二五〇円、昭和五一年九月から金二九〇円、

(2) 二一七番四の土地については、昭和四七年五月から金一二〇円、昭和五一年九月から金一九〇円、

(3) 二一三番九の土地については、昭和四七年五月から金一八〇円、昭和四九年七月から金二九〇円、昭和五一年九月から金三六〇円、

であり、右借地人らの昭和四七年以前の賃料改訂の状況も、被告らの場合とほぼ同様であって、右借地人ら及び被告らは、共に、昭和四七年五月の改訂以前にも、昭和四五年七月と昭和四六年六月にそれぞれ賃料が増額されていること、

(二)  亡嘉七は、被告らに対し、昭和四九年六月一四日から同年九月七日までの間に、それぞれ書面をもって公租公課の増額に伴い、賃料を公租公課の一・五倍に増額する旨の意思表示をしているが、それによると、三・三平方メートル当りの月額賃料は、本件(一)、(二)(1)(2)、(三)ないし(五)の各土地については金二一〇円、本件(六)土地については金一二〇円、本件(八)土地については金三〇八円であること、

(三)  本件各土地(但し、本件(六)土地を除く。)の近隣にあり、右各土地と同じく本町通り商店街をはさんで、これに面する形でその東西に存する訴外橋本佐七所有地の借地人合計一八名の三・三平方メートル当りの月額賃料は、右土地の方が本件各土地より国鉄中央線三鷹駅に近いにもかかわらず、いずれも昭和五一年六月から金二四八円であり、それは以前は金一八〇円であること、

以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定した各事実によれば、前認定の増額請求時における本件各土地の三・三平方メートル当りの適正な月額賃料を判断するに際しては、近隣土地の地代、殊に、被告らと地主を同じくし、そのうえ、地番や従来の地代及びその増額状況もほぼ同じくする他の借地人らの地代との比較において、本件(一)、(二)(1)(2)、(三)ないし(五)、(七)の各土地については金二九〇円、本件(六)土地については金一九〇円、本件(八)土地については金三六〇円がそれぞれその上限を画するといわねばならない。

3  ところで、《証拠省略》によれば、本件各土地のうちの基準地の基準時昭和五〇年四月一日における更地価格を一平方メートル当り金二八万六〇〇〇円と評定したうえ、これに法規制下における土地の利用度として査定した四一〇分の二〇〇を乗じ、さらに期待利回率として年間平均投資債券利率一・七一パーセントを乗じて得た金額一平方メートル当り金二三八六円を年額純賃料とし、これをもとに賃料を算出するいわゆる積算方式により本件各土地の右基準時における三・三平方メートル当りの月額賃料を算出し、これをもって即適正賃料と結論づけているが、それによれば、右月額賃料は、本件(一)土地につき金三八九・四円、本件(二)(1)土地につき金三九九・三円、本件(二)(2)土地につき金三七九・五円、本件(三)土地につき金四〇五・九円、本件(四)土地につき金三八二・八円、本件(五)土地につき金三八六・一円、本件(六)土地につき金二〇七・九円、本件(七)土地につき金三四九・八円、本件(八)土地につき金五七〇・九円である。

しかしながら、右鑑定においては、継続賃料の鑑定であるにもかかわらず、もっぱら積算方式によって賃料が算出され、いわゆるスライド方式により算出される賃料との比較や近隣土地の地代との比較検討もなされていないばかりか、右鑑定において用いている積算方式についてみても、更地価格の評定や右価格より年額純賃料を導く過程における土地利用度の査定、それに、右鑑定において採用した期待利回率について、なお問題とする余地が存する。そして、なによりも、右鑑定の結論についてみるとき、右鑑定において適正賃料とする金額は、いずれも前認定の増額請求時までの間の従前賃料の二倍を超えており、前記1で認定した物価上昇率及び公租公課の増加額を基礎とするいわゆるスライド方式により算出した本件各土地の賃料額をも著しく超過しているうえ、前記2で判示した本件各土地の近隣の地代との対比による賃料増額の上限をもはるかに超えていることが明らかである。これに加えて、前認定のとおり本件各土地の賃貸借は、そのほとんどが昭和初期から長期間にわたって継続しているものであり、昭和四五、四六年にも賃料が増額されていて、その後さらに昭和四六年一〇月、あるいは昭和四七年五月に増額改訂された本件各土地の従前賃料をわずか三、四年の間に二倍余りも増額させねばならないほどの急激な経済事情の変動は本件全証拠によるも窺われず、以上の諸点を総合して判断するとき、右鑑定の結論そのものも妥当性を欠いているものといわざるをえない。

したがって、右鑑定は、積算方式によった場合の賃料額をみるうえでは一応考慮に入れる余地はあるにしても、本件各土地の適正な継続賃料を算定するうえにおいてはさほど参酌に値しない。

なお、甲第一〇号証の鑑定書も、鑑定の出発点において、本件各土地の従前賃料の認定に誤まりがあり、その鑑定内容も参酌しがたい。

4  以上によれば、前認定の増額請求時における本件各土地の適正賃料は、前記1で認定したいわゆるスライド方式により算出した賃料額と同2で認定判示した本件各土地の近隣の地代の状況及びそれに基づく賃料増額の上限を総合勘案して決するのが相当である。

しかるとき、右増額請求時における本件各土地の三・三平方メートル当りの月額賃料は、本件(一)、(二)(1)(2)、(四)、(五)、(七)の各土地につき各金二六〇円、本件(三)土地につき金二七〇円、本件(六)土地につき金一七〇円、本件(八)土地につき金三五〇円と認定するのが相当である。

五  以上によれば、亡嘉七の被告ら(被告尾林についてはその被承継人尾林酉蔵)に対する前認定の賃料増額請求は、前記四4で認定した適正賃料額の限度においてその効力を生じたものというべきであるから、原告らの本訴請求は、被告らとの間において被告らがそれぞれ賃借している本件各土地の昭和五〇年五月一日以降の賃料につき右の増額の効力の生じた賃料額の確認を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山匡輝)

〈以下省略〉

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